児ポ法について(2)

 直接児童 (18歳未満) が深刻で悲惨な被害者となる 「児童買(売)春」 や 「虐待」 への規制に反対する人もあまりいないでしょうし、こうした行為が人間として最低のものであるのも論を待ちません。 しかしこの通称 「児ポ法」 は原案の段階では 「児童ポルノ」 に対する定義が非常に曖昧で、「絵やマンガによる表現」 まで禁止の対象となりうるため(事実、ある段階までは積極的に含むとする意見が大勢でした)、本来の法趣旨である “児童の人権保護” とは無関係な恣意的運用による言論・表現の自由への制限が考えられると、当初より強く危惧されて来た経緯があります(フィクション規制、創作物規制、空想表現規制とも呼ばれています)。


 また原案のある段階では、「絵やマンガ」 の 「単純所持」 や 「単純製造」、「単純譲渡」 まで麻薬や拳銃なみに処罰の対象とする内容があり(2000年4月27日、日本ユニセフ協会などが東京都内で主催したシンポジウム 「犯罪です、子ども買春」 での、自民党森山真弓総務会副会長(当時) も、基調講演中で繰り返し強調)、極端に云えば、数年前に購入した 18禁アニパロ同人誌を押入にしまっていただけで、あるいは暇つぶしにメモ用紙の裏にエッチな絵を描いただけで、それをもらっただけで、ある日突然捕まる可能性もあった訳です (別件逮捕の要件としては、逮捕後の被疑者が受ける社会的評価への決定的な影響も含め、これ以上便利な法律もないでしょう)。


 さらに付け加えるならば、「絵やマンガ」の 「表現」 は、必ずしも裸体・性交などの直接的な性表現を指しておらず、「児ポ法運用側」 が「こりゃけしからん」 と思えば、セミヌードや水着、着衣の状態のものでも、規制の対象となりうるものでした (そうだとする国会答弁もありました)。


 もちろん法の施行と運用とはまた別の問題ですから、よほど極端な場合でなければ、手錠を掛けられるような事にはならないと思いますが、ただしまったくない… とは云えません。 しかも対象 (描かれるキャラクター)が児童かそうでないかの年齢規定に関しては、なにしろ空想上のキャラクターであり実物の人間がいないわけですので、そのキャラクターなりが「18歳未満」 だと運用側の誰かが見た目で判断したら、無条件で規制の対象となりうるいい加減さです (児童かどうかの最大にして唯一の判別根拠は「年齢」 だけなのですが、年齢なる概念が存在しないマンガや小説の架空の人物にどうやって合理的にそれを当てはめて判断するのか本当に疑問です)。


 最終的に同法案は、1999年4月27日に参議院を通過、5月14日に衆議院に送られ、満場一致で可決・成立し、11月1日より施行されました。 同法施行後3ヶ月の間に 26件、30名の摘発があり、その半数が、インターネット上での実写画像データの陳列・頒布に対しての適用となっています(詳しくは下記に掲載の 年表 を参照のこと)。 2003年7月には、最初の改正が行われました。


 なお法案成立・施行運用の可否に関わらず、こうした種類の問題が起こるたびに繰り返される、表現する側 (作家と云うよりは、もっぱらコミック出版社側) の過剰な 「自主規制」 による表現活動の萎縮・制限も、心配されています。 むしろある意味では、こちらの方がより深刻な問題だと云えるかも知れません。


 ところで 2003年になって、地方自治体主体の 「青少年健全育成条例」のようなものが、国政レベルでも新しく法案として審議されるという動きが見られます。 「青少年有害社会環境対策基本法案」と呼ばれるものがそれで、いわゆる 「児ポ法」などとも異なった出自で、マンガやアニメ、ゲームなど図書類に似たような包括網羅的な規制をかけようとの法案です。 ここしばらくはあらゆる点で、行政の対応に注目して行く必要がありそうですね。

児童ポルノ法の持つ潜在的な問題点とは…?
  • 基準が不明瞭
  • 架空の人物に対しても適応するのか
  • 表現の自由に抵触するのではないか
  • 単純所持で逮捕ができる